第6回 ウズベキスタンの奥深いスザニの世界に触れて (後編)-姉妹が行く! 世界てくてく手仕事の旅

第6回 ウズベキスタンの奥深いスザニの世界に触れて(前編)はこちらから
新しく生み出されるデザインに込められた想い
次に、ブハラにあるリナさんご家族のお店を訪ねました。


リナさんは日本語が堪能で、日本人向けのガイドブックでスザニ刺繍の体験ができたり日本語対応可能なお店の店主として紹介されていたりもします。
リナさんはスザニの刺繍をすること自体が好きで、お姉さんのワズィラさんはデザインをすることが好きだと言います。一括りにスザニ刺繍と言っても、刺繍、デザインなどのさまざまな側面があることを実感します。

リナさんとワズィラさんはマスターとして生徒さんも持っており、直接教えるのに加えてオンラインでも週に2~3回教えているそう。遠い村に住んでいて通いにくい人もスザニ刺繍を学ぶことができるといいます。現代のテクノロジーを取り入れて、新しい形で伝統が紡がれているのも素敵だなと感じました。
村の中で仕事のない地域では、今もこうしてスザニがつくられる一方で、若者は大学に行ったり街に働きに出たりとスザニ刺繍をしない人も増えているそう。どこの国や地域を旅しても似たような状況があり、時代の転換期であると実感します。


ワズィラさんに、新しいデザインが生まれていく背景と、彼女が模様に込めた意味を教えていただきました。


このデザインは全体で人生観を表しており、真ん中の水色の点から始まります。豊かさの象徴の美しいザクロに囲まれながら、青はいいことや幸せを、茶色は悪いことを象徴し、対象的な構図と共に人生にはいいことも悪いこともどちらもある、という想いが込められているそう。
また、右上の1枚の葉は、昔は葉を描くと人生の終わりを意味したといいますが、人生や命は終わらないという彼女なりの新しい意味を込めて、あえて描いたといいます。

デザインをするときは、他とは違う、これまでにない自分がほしいものをデザインするそう。
デザインは、伝統的なものをお母さんの作品や本から学んだり、新しいものとミックスして考えるのが好きだとか。
「スザニ刺繍は忍耐も必要でもちろん大変だけれども、心を込めて楽しめば、大変ではない。それはどんなことにも言えると思う」と話してくれ、職人さんの誇りと情熱を感じました。

ブハラの圧巻の華やかさのスザニ
ブハラではART GALLERY RAKHMON TOSHEVというショップ兼工房も印象的でした。入った瞬間のデザインの華やかさと細かさの圧巻の美しさに感動したのを覚えています。
この技術や経験は何かの形で後世に残しておかなくては、と使命感のようなものさえ感じる作品が詰まった宝物のような美しい空間でした。





Rakhimjonさんで7代目になるといい、お父さまであるRakhmonさんは現在61歳で10歳からスザニ刺繍を始め、これまで200人以上に教えたといいます。世界の手仕事の担い手は主に女性が多かったなかで、スザニ刺繍は男性もするというのも印象的でしたが、女性が作り手となり、男性が売る場合も多いそうです。
ここではブハラの特徴である華やかな色使いの草木染め原料やモチーフの意味を教えていただきました。また、ブハラのスザニ刺繍は細かさも特徴で、大きな作品にはなんと21種類もの技法で刺繍されているといいます。


例えば各モチーフについて、鳥と天使は平和や楽園を、アーモンドは裕福さを、唐辛子は魔除けを、魚は純粋さを、太陽は新しい1日を、ティーポットはエネルギーを、花は愛を象徴しているそうです。

また、かつてウズベキスタンで蛇は知恵を意味するものでしたが、イスラム教が広まった後では悪魔の使いであるとされ、いい意味ではなかったりします。トルコのオスマン帝国時代のチューリップのモチーフがあったり、古いデザインの中には、原始宗教と呼ばれるシャーマニズムの影響を受けた紀元前から続くモチーフもあるといわれているそうで、歴史や時の流れを感じます。

波線は続くものを意味し、三角はお守りの意味があったりと、古代の紋様やシンボルもスザニ刺繍のデザインの中に見られます。


草木染めで染色をしており、青はインディゴ、グレーはブラックベリー、ピンクはビーツ、濃いピンクはチェリー、オレンジはタマリンド、深緑は紫蘇、黄色は玉ねぎの皮、淡いオレンジはキノコ、加えて混ぜ合わせることでさらに多くの色を表現したりと、色だけでも奥深い世界が広がっています。

個性を表すスザニ
ブハラでは嫁入り道具として4種類のスザニを持っていくそう。
人によって願うものが異なり、その人の持参したスザニ刺繍を見ることで、健康か繁栄か、愛か安全かなど、結婚生活や家庭を育む上でその人の性格や大切にしていること、望みが分かるという文化のお話も面白かったです。

伝統とは
次の国キルギスの国境付近のリシタンという街でたまたまテキスタイル市が開かれており、偶然にもウルグットのスザニのお母さんとの再会を果たしました。



お母さんは1人でスザニをたくさん持って電車に乗り、4時間かけて来たといいます。ブースでは椅子にも座らず、代わりに一つでも多くのスザニをキレイに見せようと、椅子にもお母さんのスザニが並びます。このタフさと誇りのようなものは、一朝一夕ではなく、強い信念と日々の積み重ねからやってくるのだと実感しました。


実は、ご自宅の工房を訪ねたときに1番心に残っている話があります。お母さんに「スザニ刺繍は好きですか?」と聞いた時、「もちろん好きだけど、毎日朝の9時から夜の18時までやるの。これがわたしたちの日々の生活であり、伝統だから。趣味のサッカーのように、今日やりたい、今日は気分じゃない、ではなく毎日毎日やるものなのよ。」と笑って応えてくれました。
“もの”ではなく、”人”が、その”暮らし”が、“日々の生活”が伝統文化そのものであると教えてもらいました。
6歳の娘さんは、4歳からスザニ刺繍を始めたといいます。小さい手で大きな布をしっかりと持ち、お母さん達に教えてもらいながら、一針一針と縫っていきます。
こうして日々が文化や伝統となって、世代から世代へと紡がれていくのだと、心に深く響いた光景でした。

shimaitabi の食日記 ~ウズベキスタン編~
2024年9月10日 @サマルカンド
大釜でつくるプロフ

ウズベキスタンの思い出深いご飯といえばプロフ。大量の油で牛肉や羊肉を揚げ焼きにし、千切りにした甘味の強い黄色のにんじんと玉ねぎを加えて煮込み、お米を入れて炊き、最後にレーズンを混ぜ合わせたウズベキスタンの炊き込みご飯です。
初日に食べて野菜の甘みとお肉の旨味をたっぷりに吸ったあまりの美味しさに感動して、ウズベキスタンの旅が楽しみになったのを覚えています。
かなり脂っぽいため、現地の人は酸味の効いたヨーグルトスープやレモンティー、サラダと食べるのが一般的で、スッキリして相性抜群◎。男性は酸っぱいぶどうジュースを食前に飲む方も多いそう。
地域によって作り方や味付けが少し異なり、食べ比べも楽しいポイント。朝に炊くため、人気なお店ほどランチにはすぐに売り切れてしまい、基本的にディナーでは食べることができません。
結婚式にも欠かせない料理で、朝から準備をして何百人という参列者に振るうんだとか。大きな釜で炊き、みんなで分け合って食べるからこそ美味しい素敵な食文化のある料理です。
次回もお楽しみに!
PROFILE

世界一周 姉妹旅 毛塚美希・瑛子 Miki, Akiko Kezuka
その土地の暮らしと文化に触れるのが好きで、世界一周の旅に出た20代の姉妹。手仕事を中心にライティング、買い付けを行う。姉は元インテリアメーカー勤務、妹は元食品メーカー勤務。手仕事、食と酒場、囲碁をテーマに、自由きままに各地を巡る。
小さな村でホームステイ、工房巡りに、そのまま地元の人達と乾杯! そんな日々の暮らしに溶け込むその土地らしさを感じたままの温度でお届けします。
HP: https://sites.google.com/view/shimaitabi?usp=sharing