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第5回 スリランカの美しく可愛らしいボビンレース -姉妹が行く! 世界てくてく手仕事の旅

2024年春、姉妹で世界一周の旅に出た手仕事ライターの毛塚美希さんと、酒場文化が大好きな妹の瑛子さんの連載がスタート! 姉妹旅のテーマは①手仕事、②食文化と酒場、そして③囲碁交流…!? 地域に根ざした手仕事と食文化、ときどき囲碁にまつわる旅エッセイをお届けします。第5回は、スリランカで見つけた可愛いボビンレースについてです。
photo & text: Miki Kezuka & shimaitabi, edit: Hinako Ishioka

スリランカのボビンレース

連載第5回目は、スリランカのボビンレース。

スリランカでは、首都のコロンボ、日本語学校のあるチラウの近くのマダンペ、世界遺産の古代遺跡があるシーギリヤ、バティックの盛んな中部のキャンディ、紅茶の茶畑があり高原列車が走るヌワラエリア、ボビンレースの盛んな南側沿岸部のゴールとたくさんの街を旅しました。
仏教やヒンドゥー教やキリスト教、南国の自然と統治時代の街並み、活気のある市場、フレンドリーな人々と、さまざまな文化が混ざりいろいろな表情の魅力が溢れるスリランカは大好きになった国のひとつです。

キャンディとヌワラエリアの茶畑の間を駆け抜ける高原列車。

今回「ボビンレース」をトピックにあげたのは、レースといえばヨーロッパのイメージがあったので、スリランカでも盛んなことを知り興味を持ったのがきっかけです。前回のバティックに引き続き、ヨーロッパの統治時代に伝わり発展してきたボビンレースは、国際交易の重要な拠点の歴史を持つスリランカならではの手仕事です。
トレーニングセンターでボビンレースが継承される様子を見たり、チャーミングなお母さんがつくるうっとりするほど美しいものと出会ったり。今回は、沿岸部ゴールで紡がれてきたスリランカのボビンレースのお話です。

ボビンレースを編む様子。

スリランカとボビンレース

ボビンレースとは、世界の手仕事のレースの中でもメジャーな手法のひとつで、パターンを描いた紙を織り台に貼り付け、パターンに合わせてピンを刺して糸を固定し、ボビンに巻きつけた何本もの糸を交差させてレースを編んでいく手法です。

ボビンレースを編んでいく様子。糸を捻ったり交差させながら編んでいく。

スリランカのボビンレースの歴史は、17世紀にスリランカを統治していたオランダから南側沿岸部の街、ゴールを中心に伝わりヨーロッパ向けに輸出されていたといわれています。

18世紀後半にはイギリス統治に代わり、19世紀後半のイギリスヴィクトリア朝時代にファッションとしてのレースが大流行し、ヨーロッパのレース需要が拡大します。沿岸部ゴール地方の一般的な職業であった漁業だけでは不安定な家計を支える、女性の家内制手工業として発展していったそう。

スリランカのレースは宗教的な用途ではなくヨーロッパの上流家庭の装飾品としての需要に向けて、日常使いしやすい花などの模様、厚みがあり耐久性が高いことが特徴です。

スリランカのボビンレースは少し厚みがあり、可愛らしい花模様が特徴。

継承されるボビンレース

ゴールの街にあるNational Crafts Counsil(NCC)という政府の団体が運営しているボビンレースのトレーニングセンターを訪ねてお話を聞かせていただきました。
1982年に始まったNCCは、伝統技術の継承を目的とし政府の補助で運営され、地元の女性であれば無料で通うことができます。現在は約20人の方が通っており、1日に6時間、週に5回ほどのクラスがあるそうです。

クラスの内容はまず最初の半年でボビンレースの基礎的な技術を学び、その後半年ほどジョブトレーニングがあります。ジョブトレーニングでは技術だけでなく、どうやって売ったらいいかわからない地元の女性たちにビジネスの知識も教えることで、収入向上とビジネスを継続することをサポートします。その後は1年ほど各家庭でつくってNCCに納品し、その後さらに新たな技術を学ぶクラスに参加するというサイクルだそう。

トレーニングセンターでのNCCのボビンレースのクラスの様子。地元の女性が通っている。

こちらのセンターに通われている中で1番若い女性は32歳の方で、まだ通い始めて2ヶ月だそうです。「60cm編むのに3日かかったけれど、つくるのは好きで楽しい」と話してくださいました。4年目になるという女性も、センターに置いてある商品を「これは私がつくったのよ」とうれしそうに見せてくれました。

つくったと見せてくれたレース。さまざまなパターンがある。

こうしてひとつずつ地道に技術を学び、練習が積み重なって少しずつ形になっていくボビンレースを見て、改めて手仕事にかかる果てしない時間と、その尊さ、それによる美しさと温かさを実感しました。

新しい模様を教えている様子。

スリランカのボビンレースの現状

ゴール近郊の街ではまだ家庭でつくられるボビンレースが残っていると聞き、工房めぐりをしました。
それぞれの街にひとつずつレースのショップ兼工房のようなところがあり、近所の各家庭でつくられたレースはここに集められ、レースのままの状態や、洋服や小物の一部に加工され、販売されています。

ここでは機械製のレースやボビンレース以外の手仕事のレースも扱っており、シャトルを使って結んで作るタティングレースをつくっている様子も見させていただいた。

とあるレース工房に行こうとしたら、記載されていた住所が工房の場所と少し違い、普通の民家がありました。呼び鈴を鳴らすと70歳くらいのおばあちゃんが出てきてくれ、彼女もレースを織っているよと見せてくれました。その辺りを歩くと他の家の窓からもミシンやボビンレースの織り台が顔を覗かせていました。

NCCにいくつか教えていただいた他のレース工房の1つでは、可愛らしいお母さんが2人、店番をしながら店先でボビンレースを編んでいたりと、さまざまな規模の工房がありました。

ララニさんのボビンレース

中でも特に美しく一目惚れしたのがララニさんのボビンレースです。ご自宅でつくられており、民泊(ホームステイ)も営んでいるとのことで、こちらに1泊させていただきながらいろいろなお話を伺いました。

40本以上のボビンをほぼノールックで素早く編んでいく様子はまさに職人技。
編み方を少し教えてもらったがとても難しく、ララニさんのすごさを体感した。

ララニさんは、約25年前にお母さんに教わってボビンレースづくりを始めたといいます。「お花の模様は特に難しいが、スリランカらしいので喜んでもらえるし、可愛いのでお気に入りなの」と嬉しそうに見せてくれました。
このお花はシンハラ語で「ピッチャマン」と呼び、ジャスミンの白いお花がモチーフになっています。温かくてチャーミングなララニさんの人柄が溢れる可愛らしいお花模様のボビンレースに私は見惚れていました。

繋ぎ目もとても丁寧に縫い合わせており、よく見ないと繋ぎ目が分からないほど。
最後に繋ぎ合わせた時は、はみ出した部分も丁寧にカットして完成。

お花の模様は、機械製の花びらの形をしたものが連なっている糸というかレースのようなものがあり、それを繋ぎ合わせているのかと思っていたら、作り方を聞くと、なんと全てゼロから織っていました。つくっているところを見せていただきましたが、ハシゴのように編むことで花びらが1枚1枚出来上がっていきます。滑らかに素早く編んでいく様子は魔法を見ているかのようでした。

お花の花びらを1枚ずつ編んでいく様子。持つ幅を少しずつ広げることで花びらの膨らみをつくる。

宿泊させていただいた夜、一緒にご飯を食べながら話していると、知り合いにオーダーされてつくったというウェディングドレスの写真も見せていただきました。圧巻の美しさにただただ感動し、しばらくの間、放心状態でうっとりと眺めていました。

ララニさんのレースでつくったウェディングドレス。写真でもうっとりするほど美しい。
キャンディアンというスリランカの伝統的なウェディングドレスにレースがあしらわれている。

ララニさんは「ボビンレース作りをやる若者があまりおらず、近所のおばあちゃん達も高齢でレースづくりをやめてしまった人も多い」といっていました。
このような温もりと技術が詰まった美しい地域の手仕事をこの記事を通して少しでも多くの方に知っていただき、ファンが増えて、伝統が紡がれていくきっかけになれば幸いです。

自分たちのお土産として、ララニさんから購入させていただいた丸いレースとコースター。花瓶の下に敷いたり、お茶会をしたりと、温かく優雅な時間と空間にしてくれそうで、使うのが帰国後の楽しみ。

shimaitabi の食日記 ~スリランカ編~

2024年9月6日 @マダンペ
朝の定番、キャンダ

キャンダとはシンハラ語でお粥。お米とニンニクや玉ねぎ、ココナッツミルクと数種類のハーブを混ぜ合わせた飲むお粥です。
5000年以上の歴史を持つともいわれる、スリランカの予防医学‘アーユルヴェーダ’の考えに基づく、スリランカの朝の定番です。
するすると手軽に飲めて栄養は満点。お腹がじんわりと温まり、朝のエネルギーチャージにぴったりです。
スリランカでは朝食向けの屋台が集まるフードコート食堂が多くあり、自分だけのお気に入りのローカル食堂を見つけるのも楽しみのひとつです。
スリランカ滞在の最終日、せっかくだからとアーユルヴェーダのマッサージを受けに行こうと考えていましたが、朝食にキャンダを飲んだら、この一杯で十二分に癒し効果があって元気がチャージされたので、施術要らずでした。笑


次回もお楽しみに!

PROFILE

世界一周 姉妹旅 毛塚美希・瑛子 Miki, Akiko Kezuka

その土地の暮らしと文化に触れるのが好きで、世界一周の旅に出た20代の姉妹。手仕事を中心にライティング、買い付けを行う。姉は元インテリアメーカー勤務、妹は元食品メーカー勤務。手仕事、食と酒場、囲碁をテーマに、自由きままに各地を巡る。

小さな村でホームステイ、工房巡りに、そのまま地元の人達と乾杯! そんな日々の暮らしに溶け込むその土地らしさを感じたままの温度でお届けします。

HP: https://sites.google.com/view/shimaitabi?usp=sharing

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