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「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.27 ラトビア人の台所、中央市場

バルト海に面した緑豊かな国、ラトビアに伝わる手仕事の数々。今も昔も変わらない、素朴でやさしい温もりのある伝統的な技、そしてそれらを残し伝えていくベテラン職人、伝統を受け継ぎ新たな形を築く若手作家の作品など。雑貨屋「SUBARU」の店主・溝口明子さんが出会った、ラトビアの手仕事の現在(いま)を現地の写真と共にお届けします。
Text,photo:Akiko Mizoguchi

リガの中心地にあるRīgas Centrāltirgus/リガ中央市場は、1930年に開業した北欧最大級の市場です。およそ10ヘクタール(東京ドーム約2.1個分)という広大な敷地には、約3,000もの出店者が軒を連ねており、新鮮な食材やお花、日用品などを求めて毎日4万~5万人ものお客さんが押し寄せます。また、地元の人だけではなく、観光客も必ずといっていいほど訪れる人気スポットでもあります。敷地の半分ほどを占める5棟のパビリオンはそれぞれ、乳製品、精肉、魚介類、青果、そして2019年にリニューアルオープンしたガストロノミーのコーナーに分かれています。各パビリオンでは、その品揃えだけではなく、高さのある広い空間がインパクトを与える建物自体にもご注目ください。なんと、第一次世界大戦中に、ラトビア西部クルゼメ地方の空港でドイツ軍が飛行船ツェッペリン号を格納していた建物が移築されて活用されているのです。

前面に窓が見える4棟と写真左側の横向きの1棟の計5棟のかまぼこ型の建物が中央市場の屋内エリア。建物の奥が屋外エリア。右にはダウガヴァ川が流れている。

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ハンザ同盟の時代から繁栄していたリガ。市場自体はもともとラトビアを貫く大河ダウガヴァ川のほとりにありましたが、1922年の市議会の決定により中央市場として大々的に整備が決まり、そのシンボル的な建物として格納庫を利用することになりました。

1930年に竣工された建物は、すべてのパビリオンにセントラルヒーティングと電灯設備、倉庫や冷蔵庫、エレベーターが設置された、非常に近代的なものだったそうです。各パビリオンのホールは、高さ20.5 メートル、幅35 メートル、長さ200 メートルという大きさ。しかも、市場自体が河川と運河の交点に位置しているので物流も文句なし。ラトビアのみならず、ヨーロッパ最大の市場として栄えたのも納得です。
旧ソ連の占領下でも中央市場はコルホーズの市場として機能し、取引量は相当の数でした。独立回復後も賑わいは続き、1997年に中央市場は旧市街とともにユネスコの世界遺産に登録されました。

それではじっくりと市場を散策してみます。まずは屋外エリアから。

所狭しと並ぶ鉢物のお花。ラトビア人は本当にお花が大好き!

野菜や果物、お花や日用品が並んでいます。旬の食材が山盛りに並んでいるので、ラトビア人の食卓の「今」がわかります。また、イースターや夏至祭など季節のイベントのためのアイテムも並ぶので、どの季節に訪問しても見るものが違っていて楽しめます。

ライ麦パンを発酵させたドリンクKvass(クヴァス)も休憩がてら飲める。
木工品や編み物などのハンドクラフトも売りに来ている。これは蜜蝋。

続いてパビリオンの中も散策。

秋になると野菜のパビリオンには見たことのないカボチャが並ぶ。
保存食文化のラトビアではさまざまなピクルスが売られている。

どこの国でもそうですが、市場を見るとその国の食文化がギュッと詰まっています。ガストロノミーのパビリオンにはフードコートもあり、リガ市民も観光客も軽い食事を楽しんでいます。

ラトビア人の“主食”の黒パンやスウィーツ類も。

今は町なかのあちらこちらに便利なスーパーマーケットがあるので、普段はそちらで買う人が多いのですが、とっておきの食材になるとやはり中央市場に足を運びます。実際に友人も「今日のパーティーのメイン料理のお肉を買いに中央市場に行った」などと口にします。

ラトビアでメジャーな魚の食べ方は燻製! ニンニクやチーズなど、さまざまなフレーバーと一緒に燻されていて、やみつきになるおいしさ。
パイクなどの淡水魚は鮮魚として売られている。

初めて中央市場を訪問してからずっとその規模や熱気に圧倒されてきましたが、今年6月に訪問した際に、空き店舗や更地が増えていることが気になりました。実は、今、バルト三国の首都間を鉄道で結ぶというレール・バルティカ計画(※将来的にはフィンランドから海底トンネルを通り、バルト三国を縦断してポーランドへ。さらにその先の欧州主要国とも繋がる予定)が進んでおり、リガ鉄道駅と隣接する中央市場周辺は大規模工事中なのです。鉄道網の整備と併せて再開発が進む中央市場。近い将来、近代的でさらに人や物が行き交うますます活気あふれる場所に変貌を遂げることでしょう。

以前は露店がひしめいていたエリアが空き地になっていた。写真奥には先行して完成した鉄道駅の上屋が見える。

INFORMATION

PROFILE

溝口明子 Akiko Mizoguchi

ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。

http://www.subaru-zakka.com/

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