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矢崎順子の手芸アイデア・ノート 『三つ編みを読む』~Lesson4 ブックガイド&三つ編みの栞づくり

過去も現在も、日本でも世界でも、多くの人に身近な存在の「三つ編み」。そのシンプルで美しい模様、日常に溶け込む動作には、たくさんの楽しみとものづくりのヒントが隠れているかもしれません。数多くのワークショップや手芸本を企画してきた矢崎順子さんが、三つ編みにまつわるトピックと手芸的なアイデアの両面から、その魅力と可能性を探っていきます。
text: Junko Yazaki

三つ編みが物語のモチーフとなる絵本や童話には、どんなものがあるでしょうか。
誰もが知ってる三つ編みの女の子のお話や近年ベストセラーになった三つ編みがテーマの本など。
今回は、三つ編みにまつわる本を紹介します。

赤毛の三つ編みの女の子、アンとピッピ

世界中で知られる三つ編みの女の子と言って思い出すのは、アンとピッピ。二人とも、そばかすだらけの顔に赤毛の三つ編みで、元気いっぱい自由な女の子。
『赤毛のアン』は1908 年に、カナダの小説家ルーシー・モンゴメリによって初めて刊行された長編小説。『長くつ下のピッピ』は1945 年に、スウェーデンのアストリッド・リンドグレーンが執筆した物語です。時代は少し違いますが、その後に三つ編みの二人の女の子は世界中で人気者になりました。

『赤毛のアン』(著:ルーシー・モード・モンゴメリ、訳:村岡花子、装画:北澤平祐、講談社、2022年刊)

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マリラの三つ編みマット

『赤毛のアン』は、カナダのプリンスエドワード島を舞台に、孤児のアンがマシューとマリラの老兄弟に引き取られて強く生きていく物語。1890 年代のプリンスエドワード島では、料理、手芸、ガーデニングなど、暮らしの中には手作りによって彩られた描写も多く見られます。

日本では村岡花子さんが訳したものが有名ですが、小説以外にも、そんな物語の手作りをテーマにした手芸や料理などの実用的な本も数多く出版されています。そして、三つ編みというキーワードで『赤毛のアン』を読んでみれば、アンの髪型のほかに、マリラが作った三つ編みマットが登場します。アンが初めてマリラの家に来た時の寝室にもあったもので、マリラが古い毛布や布を使って作ったものです。
「床もむき出しで、ただ、まん中に、アンが見たこともないような、まるい、編んだ敷物がしいてあった。」
三つ編みマットは、今でも手芸好きの方が作品作りに取り入れている手法です。これはもともと、古い布製品を新しく生活で使えるものに作りかえようというアップサイクルの精神から始まりました。もとはイギリスで始まり、移民によってアメリカに伝わり、初期のアメリカで広まったと言われています。

古い衣類や寝具などを細長い形の紐状に切って、それらの紐を組むことでブレードを作ります。紐の組み方にはいろいろな方法がありますが、一番簡単なのが三つ編みで、紐を三つ編みなどで組んで作ったブレードを楕円や円形になるように繋ぎ合わせて面にします。マット以外にも、寝具、クッションなどのアイテムを作ることができます。

『決定版 長くつ下のピッピの本』(著:アストリッド・リンドグレーン、訳:石井登志子、絵:イングリッド・ヴァン・ニイマン。徳間書店、2018年刊)

ニイマンが描くカラフルなピッピの世界

もう一人の三つ編みの女の子が主人公の物語は、スウェーデンで誕生しています。作者のアストリッド・リンドグレーンが、娘のために話して聞かせていた物語が、1945 年に「長くつ下のピッピ」として出版されました。それ以降、リンドグレーンは『やかまし村の子どもたち』『名探偵カッレくん』『ミオよ、わたしのミオ』『はるかな国の兄弟』など、数々の物語を生み出しました。

子供ならではのユニークな視点で紡がれた物語そのものの魅力はもちろんなんですが、私がピッピの本を好きな理由の半分は、イングリッド・ヴァン・ニイマンが描いた挿絵の存在です。現在の日本の翻訳本でも、このイラストの本がいくつか出版されているので、本をまだ読んでなくても、この絵は知ってる人は多いのではないでしょうか。
もともとニイマンはリンドグレーンのお気に入りのイラストレーター で、初版本のために、二人は打ち合わせを重ねながらイラストを完成させたそうです。

ピッピのかわいい三つ編みを鑑賞するのにおすすめの本

ニイマンのカラフルなイラストが楽しめる本としておすすめなのが、徳間書店のピッピの決定版と絵本シリーズです。決定版は『長くつ下のピッピ』『ピッピ 船にのる』『ピッピ 南の島へ』の3 冊から、リンドグレーン自身がまとめた読み応えのある1 冊。
絵本のほうは、スウェーデンで親しまれていた絵本の翻訳本でシリーズで4 冊あります。「ごたごた荘」と呼ばれる古い一軒家に一人で暮らす一風変わった女の子のピッピ、その家の隣に住んでるトミー、アニカの兄妹。ピッピが過ごす不思議で楽しい毎日が、見開きいっぱいに広がるカラフルな絵で表現されています。
鮮やかな青、赤、緑、黄色。限定した色数で表現された細かい描写のイラストページは、いつまでもじっと見ていたくなるおもちゃ箱のよう。

三つ編みに注目して挿絵を見てみると、ピッピの三つ編みはただの三つ編みではないことがわかります。ピッピ以外の女の子の三つ編みは、いわゆる「おさげ」で、左右で2 つに分けた三つ編みは普通に下の方へ向かって、端にはリボンが結ばれています。
ピッピの三つ編みは、下に向かってる描写は無くて、だいたい真横か耳より上に向かっています。いつでも飛び回ってる、走り回ってるくらい元気なキャラクターが、この上向きの三つ編みの描写から伝わってくるのが面白いところ。そして、ピッピの三つ編みの端をよく見ると、リボンではなく、ゴムか紐のような緑色のもので留められているのがわかります。こんな風に、ニイマンのイラストには、文章では表現されてない細部の描写を鑑賞する楽しみがたくさん詰まっています。

折り紙で作る三つ編みの栞

今回は、このピッピの本にぴったりな「紙の三つ編みの栞」の作り方を紹介します。
ニイマンの描くビビッドでシンプルな色使いに、日本の折り紙の色を重ねて、栞の材料を選んでみました。三つ編みの栞を本に挟むことで、ページを開くことがもっと楽しくなれば嬉しいです。

紙の種類や色を変えれば、いろいろな三つ編みを折ることができます。また、3 枚の紙の幅が同じじゃなくても、三つ編みを折ることができるのも面白いところ。紙の両面が表に出るので、両面に色がある紙を使うとカラフルな三つ編みができます。折り紙のように片側にしか色がない紙は、二つ折りにすれば色が出ます。身近な材料を探して、いろいろな三つ編みの栞をぜひ作ってみてください。

用意する材料・道具
・折り紙(青、赤)
・画用紙(白)
・のり
・はさみ
・定規
・鉛筆

三つ編みをテーマにしたおすすめ本

今回紹介した『長くつ下のピッピの本』『赤毛のアン』以外にも、三つ編みをテーマにしている本はまだまだあります。上記2冊とともに、おすすめの本をご紹介します。

『決定版 長くつ下のピッピの本』(著:アストリッド・リンドグレーン、訳:石井登志子、絵:イングリッド・ヴァン・ニイマン。徳間書店、2018年刊)
リンドグレーンの代表作である「ピッピ」の3 冊から、作者自身が1 冊にまとめた決定版。スウェーデンの本でも使用されているオリジナルのイラストが豊富にちりばめられた楽しい1 冊。対象年齢5歳から大人まで幅広く楽しめる。
『こんにちは、長くつ下のピッピ』(著:アストリッド・リンドグレーン、訳:いしいとしこ、絵:イングリッド・ヴァン・ニイマン、徳間書店、2004年刊)
スウェーデンでずっと愛されて続けているオリジナル版絵本。小さな子どもでも楽しんでもらえるように作者のリンドグレーンが書き下ろした絵本の日本語版。大判の絵本は、ニイマンの絵の世界を楽しむにも、ぴったり。これを含めて絵本シリーズは4 冊ある。
『赤毛のアン』(著:ルーシー・モード・モンゴメリ、訳:村岡花子、講談社、2022年刊)
1952 年に日本で村岡花子が初めて紹介した「赤毛のアン」。それから70 年が経った2022 年に邦訳70 周年を記念して出版された本。イラストレーター北澤平祐と人気の装丁家・中嶋香織とによる装丁が美しく、こどもから大人までおすすめの1冊。
『三つ編み』(著:レティシア・コロンバニ、訳:齋藤可津子、ハヤカワepi文庫、2019年刊)
2017 年に刊行後、フランスで120 万部、世界では32 言語に翻訳されるベストセラーになった小説。インド、イタリア、カナダで生きる3 人の女性の人生。女性の困難と差別による厳しいそれぞれの人生模様が三つ編みのように絡み合う物語。三つ編みという多くの女性にとって馴染み深い言葉が、壮大な物語のキーワードとなる。
『まあちゃんのながいかみ』(著:たかどのほうこ、福音館書店、1995年刊)
おかっぱ頭のまあちゃんが主人公の絵本。まあちゃんが、今よりずっと長く髪を伸ばして、こんなことをする、あんなことをすると想像しながら、それをお友達に自慢していくお話。とっても長いおさげを吊り橋からたらして、魚をつったり、おさげの投げ縄で牛をつかまえたり。現実にはありえないほど長い三つ編みのまあちゃんの絵がとても楽しい絵本です。

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PROFILE

矢崎順子 Junko Yazaki

針と糸でつくる楽しさを伝え、創作意欲を満たす場づくりをしたいと活動を行う。女子美術大学附属高校から慶應義塾大学環境情報学部へ。卒業後はギャラリーの企画を経て、ワークショップ企画、書籍の編集、執筆を手がける。2006年からartist  inという名前で、カフェで手芸を楽しむ「刺繍CAFE」を始める。「世界のかわいい刺繍」、「世界のかわいいレース」など手仕事を紹介する本のほか、「さくさく進む大きなマス目でクロスステッチ」など実用的な本の編集も多数。現在は、吉祥寺のアトリエを拠点に新しいワークショップの企画に取り組んでいる。

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