「SUBARU」店主 溝口明子のラトビアの手仕事をめぐる旅 vol.24 ラトビアの伝統的な秋分祭
今年の実りに感謝し、翌年の豊穣を祈願する伝統行事
日が長かった季節は終わりを告げ、木々の葉っぱが色付き始め、あっという間に秋が深くなっていくのを感じる9月のラトビア。秋分の日を境に、夕暮れの訪れは日増しに速度を上げていきます。
緯度が高いため、夏と冬で日照時間が大きく異なるラトビアでは、古来から太陽の動きが重要視されてきました。太陽の軌道に合わせて一年を立春、春分、立夏、夏至、立秋、秋分、立冬、冬至の八つに分け、その節目に祭祀を行い、農作業の目安にしてきました。
まもなく訪れるのが秋分祭、ラトビア語では「Miķeļdiena(ミキェリュディエナ)」、あるいは「Apjumības(アピュミーバス)」といいます。アピュミーバスの方は秋分を表わすラトビア由来の古い名称で、収穫物を屋根の下に保管する行為が語源になっています。
秋分の頃のラトビアでは主要な農作業が終わり、すべての作物は収穫の時期を迎えます。秋分を過ぎると季節は急速に冬に向かい始めるので、この日までに畑仕事を終えておく必要があったからです。伝統的な秋分祭では、ラトビア固有の豊穣の神様「Jumis(ユミス)」を祀り、今年の実りを感謝するとともに翌年の豊穣を祈願していました。また、ユミスを表わす穂先が二股に分かれた穀物を畑で探したり、ユミスの形を模した穀物を倉の屋根に飾ったりしていました。収穫したライ麦を使って儀式を行ったり、この日だけの特別なライ麦パンを焼き、食卓いっぱいに御馳走を並べ、盛大な祝宴も開催していました。
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秋分祭にまつわる言い伝えは多く、「秋分の日の前に落葉すれば暖かい春が早めにやってくるが、秋分の日のあとに落葉すれば寒い春が遅めにやってくる」「秋分の日に霧がかかっていれば良い夏になるが、乾燥した寒い日であれば悪い夏になる」「秋分の日までに鶴が飛び立てば、秋分の日から9日後に雪が降る」などといわれています。
現代では祝宴や儀式はほぼなくなりましたが、今でもラトビアの各所で秋分の日あたりに収穫祭が開催されています。お祭りにはカボチャやジャガイモ、キノコなどの農作物や黒パン、燻製魚、肉、チーズなどの乳製品といった食材はもとより、職人さんが作った手工芸品も並びます。収穫祭のデコレーションはひと際かわいく、見慣れない品種の野菜も並んでいるので見ていて飽きません。また、とれたての収穫物を使った料理も振る舞われます。秋分祭にまつわるわらべ歌遊びもあれこれ興じられるので、とても活気のあるお祭りです。
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秋分の日以降は昼よりも夜が長くなるので、昔の人々は大地が眠り始めると考えていました。収穫の喜びに満ちあふれた陽気な秋分祭以降は、一転して静かな「Veļu laiks(死者の魂の期間)」に入り、先祖を迎える期間が始まります。
PROFILE
溝口明子 Akiko Mizoguchi
ラトビア雑貨専門店SUBARU店主、関西日本ラトビア協会常務理事、ラトビア伝統楽器クアクレ奏者
10年弱の公務員生活を経て、2009年に神戸市で開業。仕入れ先のラトビア共和国に魅せられて1年半現地で暮らし、ラトビア語や伝統文化、音楽を学ぶ。現在はラトビア雑貨専門店を営む一方で、ラトビアに関する講演、執筆、コーディネート、クアクレの演奏を行うなど活動は多岐に渡っている。
2017年に駐日ラトビア共和国大使より両国の関係促進への貢献に対する感謝状を拝受。ラトビア公式パンフレット最新版の文章を担当。著書に『持ち帰りたいラトビア』(誠文堂新光社)など。クアクレ奏者として2019年にラトビア大統領閣下の御前演奏を務め、オリンピック関連コンサートやラトビア日本友好100周年記念事業コンサートにも出演。神戸市須磨区にて実店舗を構えている。