STORE

『アウト・オブ・民藝 「民」から芋づる編 MINGEIのB面!』展覧会レポート!@公益財団法人せたがや文化財団 生活工房

約100年前、柳宗悦らによって生み出され、近年再注目されている「民藝 MINGEI」。2024年4月29日から8月25日、生活工房ギャラリーにて開催中のこの展覧会では、民藝の内とその周辺にまつわる出来事の熱いリサーチの成果が見られます。主任/学芸員の斎藤直子さんにお話しを伺いました。
photo & text: Migrateur editor team

アウト・オブ・民藝とは?

三軒茶屋駅すぐのキャロットタワー3階にある公共文化施設「生活工房ギャラリー」にて、『アウト・オブ・民藝 「民」から芋づる編 MINGEIのB面!』が開催中です。
「アウト・オブ・民藝」とは、デザイナーの軸原ヨウスケさんと、美術家の中村裕太さんの2人が行うリサーチ活動のこと。1926年に柳宗悦らによって生み出された「民藝(民衆的工藝)」の周辺をめぐり、民藝に含まれなかった農民美術、民俗学、郷土藝術、手芸などの民衆によるものづくりに、「なぜこれは民藝じゃないの?」という純粋な問いを立て、民藝運動にまつわるあらゆる資料を独自の角度で掘り下げて調べていく活動です。2019年には、軸原さんと中村さんによって著書『アウト・オブ・民藝』(誠光社刊)が出版されました。

左から『アウト・オブ・民藝』(2019年)、『アウト・オブ・民藝 ロマンチックなまなざし』(2022年)どちらも誠光社刊。

2人は出版後も継続してリサーチを行い、その成果を年表形式にまとめ、生活工房の企画展で初公開されました。
「民(みん)」をキーワードにして芋づる式でごろごろと発見されていく、民藝運動の歴史やその周辺で巻き起こった特徴的(時折、すごく個人的)なエピソードを、1910年代~1940年代の新聞や雑誌などの出版物、登場人物たちの日記や書簡から拾い集め、時間軸に沿って紹介しています。
この展覧会は、“読む展覧会”ともいえるほどの膨大な文字量で展開されています。各年代で起こるさまざまなトピックにまつわる文章は、当企画のために軸原さんと中村さんの2人によって新たに書き下ろされました。著書を読んだことがある人も、そうでない人も、「民藝」の新たな一面、ひいては「アウト・オブ・民藝」を楽しむことができる企画となっています。

生活工房ギャラリーの長い壁を活かして年表の企画が生まれた。

民藝の周辺を探る

展示内容は、今から100年前、民藝運動の中心人物である柳宗悦、河井寬次郎、濱田庄司が京都で出会った1924年を軸に構成されています。しかし、「アウト・オブ・民藝の芋蔓年表」と題された大きな年表には、柳らの動向だけではなく、農民美術運動を起こした山本鼎や、東北の郷土玩具・こけしを初めて体系的にまとめた天江富弥、日本民俗学の創始者である柳田國男…など、民藝運動と同時代に活動していた、研究者たちや、無名の職人(作り手)に注目し、事細かなエピソードと共に紹介されています。

誰かと誰かが仲良しになっていた

「1924年4月(ちょうど百年前)、柳宗悦は関東大震災を機に京都へ引越し、河井寬次郎や濱田庄司と仲良しになっていました。…」
展示全体の冒頭にあたるこの一文と細やかな展示内容からは、「アウト・オブ・民藝」の活動が、“用の美”を感じさせる“物”自体の美しさにフォーカスするものとは異なるアプローチで「民藝」を探っていることがわかります。

「民藝というと今はブームになっていて、視点が“物を愛でる”方向にいっているように感じます。シンプルで良いものを長く使うといった時代の流れにマッチしているのもあるかもしれません。だけど本来、民藝はムーブメントだから、もっと人と人の出会いや活動がクローズアップされてもいいんですよね」と生活工房の主任学芸員・齋藤さんは語ります。

軸原さんと中村さんの視点は、民藝運動の周辺で、いつ誰が誰と出会い、どのような会話をしていたのかといった登場人物たちの行動やネットワーク、何が民藝とされて何が民藝とされないのかといった境界にあるようです。彼らのリサーチ活動を通して、民藝という概念の成り立ちに関わる人物たちの人間模様が垣間見えるのです。

民藝運動は、人と人が出会い、小さな活動を重ねていくことで生まれたムーブメント。
「民藝」という言葉が誕生して100年が経ちそうな今でも、その概念が人の心を掴んで離さないのは、民藝運動を取り巻く主要登場人物たちの思索と行動の積み重ねがあったから、そして創作活動を続ける「民衆」の存在があるからなのだと身に染みる展覧会です。

「『アウト・オブ・民藝』の2冊目が『ロマンチックなまなざし』というタイトルなんですけれど、やっぱりその出会いによっていろいろなものが生まれていくということ自体がすごくロマンチックなんですよね。軸原さんと中村さんが調べている、民藝運動の周辺の人たちの日記や書簡を紐解いていくと、誰がどこで何を見つけたとか、これを誰に紹介したら喜んでくれたとか、出会いも描かれているんです。そこから“物”を見るだけではわからないすごくリアルな人間像が見えてくるんです」。

展示構成は年表をベースに、軸原さんと中村さんがこれまでに蒐集してきた「民藝」にまつわる資料や貴重な出版物の現物が多数展示されています。さらに床に並べられたボックスにはリサーチの参考文献のスクラップがぎっしり詰めこまれていて、レコードショップのように資料を探る楽しみも。
生活工房ギャラリーは、誰でも無料で入れます。今回紹介した『アウト・オブ・民藝 「民」から芋づる編 MINGEIのB面!』は2024年8月25日(日)まで開催中。次回展『山下陽光のおもしろ金儲け実験室』にも、ぜひ足を運んでみてください。

お話を伺ったのはこの人

齋藤直子さん

1995年世田谷文学館開設に携わり、同文学館・生活工房でさまざまな展覧会やセミナー・ワークショップを手掛けた後、世田谷美術館を経て、2023年より現職。

INFORMATION

アウト・オブ・民藝 「民」から芋づる編 MINGEIのB面!

■会期 2024 年4 月29 日(月)〜 8 月25 日(日)
 9:00〜21:00 月曜休み(祝日は除く)
■料金 入場無料
■会場 生活工房ギャラリー(三軒茶屋・キャロットタワー3階)
■主催 公益財団法人せたがや文化財団 生活工房
■後援 世田谷区、世田谷区教育委員会

https://www.setagaya-ldc.net/program/588/

INFORMATION

公益財団法人せたがや文化財団 生活工房

世田谷区が設置した文化施設。日常の暮らしに身近なデザイン、文化、環境などをテーマに、展示、ワークショップ、セミナーなど、子どもから高齢者までが参加できるプログラムなど地域に密着したイベントを実施している。コミュニティキッチンや、ワークショップ、ミーティングなどに利用できる部屋の貸出しも。

https://setagaya-ldc.net/

限定情報をいち早くお届けメルマガ会員募集中!