イラストレーター・ハンドメイド作家 さぶさんのおすすめ『こんなおみせしってる?』
物心ついてから続けている絵を描くことと、古い物の蒐集活動が実を結び数年前からハンドメイドで表現するようになりました。小さい頃に見たおばあちゃん家の変なものたちに衝撃を受けてからずっと自分の心の真ん中にあります。自分が楽しく作った物たちが時代を超えて誰かにバトンを渡すことができたら浪漫だなあと思っています。自分が受け取った昭和の時代を生きた人々からのバトン。
Q
さぶさんのおすすめの本について聞かせてください。
『こんなおみせしってる?』(藤原マキ/福音館書店/1985年)
小さい頃に身近にあった絵本たちは1980年代に出版された福音館書店のものばかりだった。その中でも飛び抜けて好きだったのがこの絵本で、大人になってから調べると作者の藤原マキさんは漫画家のつげ義春の奥さんだったことに驚いた。演劇女優として活動後、絵本作家としての活動を始めたという。今にも動き出しそうな、なんとなく性格とかも想像できちゃうような血の通った人物と、細部まで観察された店内の様子が楽しくて彼女の感性がダイレクトに伝わってくる。当時、これから時代と共に無くなってしまうであろう商店の様子を描くため、ご自身で店を取材してまわったのだそう。
Q
この本のどんなところが心に残ったのでしょうか。
昭和ならではの商店の様子が活き活きと、少しアングラな香りも振り撒きながらお腹いっぱいに広がっている。そこには人々の日常とそこで行われているそれぞれの手作業を見ることができる。読んでいるこちらの近所の駄菓子屋さんや床屋さん八百屋さんなどにも思いを馳せることができる特典付きで、気になるけど怖くて入ったことのないお店へ入れたような没入感がある。そのゾワっとした感覚と、繰り広げられる世界観の虜となり、まだ字が読むことができなかった自分でもワクワクゾクゾクとしながら毎日のように読んだ。同時に、読んだ人をこんな感覚にさせるような表現を自分もしてみたいと憧れた。
Q
現在のお仕事・ご活動、ものづくりにはどう繋がっていますか。
子どもの頃におばあちゃんの家に置かれていた昭和の品々や、この絵本から感じ取れる”怖さ”の正体は一体なんなのだろうとよく考える。自分の中で出ている答えの1つに、「まっすぐさ」というのがある。パソコンや便利な物がない昭和の時代。全てを手作業で行う熱量と温かさから感じる「まっすぐさ」。余計なことは考えず、1点だけを見つめて進んで行く大胆さのあるバイブスを醸し出す作品を作りたいと思うきっかけとなった。表現方法や媒体に囚われずにのびのびとやってみよう!と背中を押されるような気分になる。
Q
最後に、手芸・手仕事・ものづくりの魅力はなんだと思いますか。
手芸や手仕事は「生活」に密着しているものなんだと思う。手芸や手仕事というワードからは、生活を豊かにするために勤しむ活気ある笑い声が聞こえてくるような気がしている。誰かが作った手芸作品にとてもパワーをもらう時もあれば、自分が手芸をすることによって得られるパワーもある。子どもや誰かが作った作品にとんでもない愛おしさを感じるように、自分が作った作品にも同じようなものを感じることができたら生活がより一層楽しくなるし、そういうことが豊かさなんじゃないかと思う。何かが欲しい時、買わずに「作る」という選択肢を持っているととっても面白い。
さぶさんのご著書
なつかしい、けど新しい手作りアイデア イラストレーターさぶのときめき布こもの
イラストレーターさぶさんの著書。イラストレーターならではの面白くてかわいいハンドメイド布こもののご提案。オリジナルキャラクターをモチーフとした作品や、日本紐釦貿易とのコラボ生地を使用した作品など、さぶさんの世界観が詰まった作品を様々掲載。アトリエ紹介やコラムなども楽しめる。
1,540円(税込)/ 2024年04月30日発売
(ブティック社HPより抜粋)
PROFILE
さぶ Sabu
1987年神奈川県生まれ。神奈川在住。
子供の頃に強烈なインパクトを受けた祖母の家。身近な大人達のバブル時代の青春のメモリーに次第に憧れを抱く。自分は昭和の残像に思いを馳せることしかできないけれど、勝手な解釈と想像することが楽しい。イラストの専門学校を卒業後、好きが高じて古道具屋の世界で過ごし、2012年からフリーのイラストレーターとして活動を開始。イラストレーションとハンドメイドでどんなことが表現できるのか、可能性を模索しながら日々活動。現在は主に自身の作品制作と、クッピーラムネの大人のためのラムネブランド「THE RAMUNE LOVERS」のアートワーク制作をしている。
*自費出版「もしかしてハンドメイド」/ 2021「OSHARE PARTNER Collection of Works」/ 2023 自身のオンラインストアで販売中。