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『持ち帰りたいインド』編集者・野瀬奈津子さん

『地球の歩き方 インド』(Gakken刊)の編集を担当されている野瀬さん。 『aruco インド』(Gakken刊)やインドの暮らしや文化を詰め込んだ本『持ち帰りたいインド』(誠文堂新光社刊)の著者でもあり、編集者、ライター、書籍関連のイベントなど、多方面でご活躍されています。
photo & text: Miki Kezuka

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不完全燃焼に終わった、初めてのインド

今ではたくさんのインドにまつわる著書がある野瀬さんですが、初めてのインド旅行では意外にもそれほどのめりこまなかったといいます。 
当時勤めていた出版社を退職し、会社から独立するタイミングで「旅好きだし一度は行っておくか」と、それとなくインドへ訪問。何も知らないひとり旅。リキシャという三輪タクシーのおじさんとは毎回値段交渉で言い合いになり、しつこい旅行会社のすすめに屈し「あれはだまされていたのか?」と今でも思うことがあるそうです。それほど不完全燃焼に終わってしまった初インド旅。でもいつかもう一度行かなければと、どこかで思っていたんだそう。 

インドや本づくりについて語る野瀬さん。

そんな野瀬さんがインドを再訪することになったのが『aruco インド』(Gakken刊)の取材でした。『持ち帰りたいインド』(誠文堂新光社刊)でKAILASとしてユニットを組む松岡宏大氏と一緒にインドを取材した時です。 

「インドは詳しい人と行ったら、ものすごく楽しかった!」 

リキシャのおじさんとうまく交渉する術、道に迷ったら最低3人には尋ねてみるなど、ひとり旅では理解できなかったインドの風習や文化を松岡さんに教えてもらい、インドのいろいろな表情を理解していくことで、楽しめるようになりました。 
ハプニングや大笑いすることなど、“何度行っても想像の斜め上のことが起こる”のもインドの魅力です。『持ち帰りたいインド』に登場する、毎日通ったコーヒー屋のおじさんにこの本をプレゼントしたときのこと。彼は仕事仲間に見せて、「オレが本に載ったんだ!」と涙ぐんでよろこんでくれたという。  

「大げさではなく、”素直な感情”が可愛く、羨ましくも思えました」。

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インドの美しい手仕事と本への想い

インドでの取材を重ねていく中で、奇跡の出版社とも呼び声高い南インドの“タラブックス“と出会います。 

手漉きの紙をつかい印刷から製本までのすべてを手作業で作られた本たちのあまりの美しさに感動。この本がどのように作られるのか、なぜここまで手間をかけるのか、紙の本とは何か、手作りとは何か、そんなことを考えるようになりました。あるもので工夫してなんとかするという、インド人の発想の柔軟さとタフさも感じたそう。 

また、野瀬さんに影響を受けた本を伺うと『印度木版更紗』(アナンダ出版工房刊)を見せてくださいました。 1985(昭和60)年発行の、装丁も美しく、1枚1枚ていねいに生地見本が貼り付けられていて、時の重みを感じる資料本です。 

「何十年経っても欲しがられる本というのは、すごいことですよね」。

このような経験から、野瀬さんは本づくりの際に「時を経ても色褪せず、読み継がれる本をつくりたい」と語ります。そのような想いから生まれたのが著書『もようのゆらい』と『かたちのゆらい』(共に玄光社刊)です。 

本を企画する際には「こんな本が世の中にあったらいいかも」という直感から企画にすることが多いそう。 

「私は編集という作業そのものが得意だし、好きなんです。人ひとりの頭の中には限界がありますが、様々な人と話し共有することで、違う視点で疑問が生まれ、広く深みが出てきます。興味のあることを自分も勉強しながら編集する過程や、いろんな側面を深堀りし、情報を整理していくのが楽しいです」。 

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日常にある手仕事

栃木県の益子町にある素敵なご自宅は、インドや世界各地の手仕事品で溢れ、奥行きのある空間でした。 

あえてひとつお気に入りを選ぶなら、モロッコで1800年代に使われていたバターケース。 

「手仕事は、温もりも雑さも唯一無二なところがいいんです。量産品でも’’手仕事風’’を売りにするものは多いですよね。言葉にはできない手仕事の心地よさをみんなどこかで欲しているのかもしれませんね」。

「少しベタベタしてバター臭いんですよ」と笑顔で匂いを嗅がせてくださいました(笑)。奥に広がる当時の日常が伝わってます。

インドの手仕事の魅力を伺うと、日々の中にある“気負わなさ”と“アノニマス感”かなといいます。
「インドは暮らしのまわりの多くのものが手仕事で、日常に溢れています。今もなお、手仕事が当たり前という暮らしは、工業製品で溢れる私たちの生活から見ると逆に贅沢な環境なんですよね」。 

野瀬さんのお話を伺い、さまざまな表情があるインドの魅力と、その中にある手仕事や日々の愛おしさを知りました。 

2024年7月31日(水)~8月19日(月)には、有隣堂書店アトレ恵比寿店にて「『持ち帰りたいインド』展(仮題)」が開催されるそう。KAILASが持ち帰ったインドの古いもの、新しいものとともに、『持ち帰りたいインド』を部数限定で特別版として再販するとのことで、とても楽しみです。ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。 

PROFILE

野瀬奈津子 Natsuko Nose

旅と茶をテーマにした書籍や企画を手がける編集者、ライター。著書に『持ち帰りたいインド』(共著・誠文堂新光社)、『かたちのなまえ』『もようのゆらい』『ローラープリントテキスタイル』(いずれも玄光社)など。『地球の歩き方インド編』をはじめガイドブックの取材執筆も多数。

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