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刺繍作家 実乃莉(池田みのり)さんのおすすめ『現代手芸考』

photo:Takashi Sakamoto, text: Hikaru Furuike , Illustration: pan-to-tamanegi

刺繍作家の実乃莉といいます。もともと、ルシアンという下着や手芸用品の製造会社の社員でしたが、『連続模様で楽しむ かんたん刺しゅう』という本を出すタイミングで退職し、現在はフリーランスのような立場で、作家活動をしつつルシアンにも半分所属するという不思議な形態で働いています。自分にあった自由な環境でありがたく活動を続けております。

Q

実乃莉さんのおすすめの本について聞かせてください。

『現代手芸考 ものづくりの意味を問い直す』(上羽陽子、山崎明子著/フィルムアート社/2020年)

俗にいう「手芸的なもの」とは一体どのようなものなのか、手芸の歴史、工芸と手芸の違い、ジェンダーの観点から見た手芸など、手芸に関するいろいろな事柄や抱えている問題について、さまざまな人の立場や多角的な目線を通して書かれている本です。

今、自分がコミットしているジャンルがどんな問題を抱えているのか、どのような位置にあり、どういったモヤモヤを含んでいるのか。
この本を読んだことで、いろいろな角度から手芸を見つめ直すことができ、自分の中の問題意識というか、見えていなかった部分がすごいクリアになった気がしたんです。
読んで答えが出るわけではないんだけれど、長い間漠然としていたモヤっとした問いや疑問のようなものが、自分の中ですとんと腑に落ちたというか、そんな感じがありました。

Q

この本のどんなところが心に残ったのでしょうか。

この本の内容って、そもそも自分の中では取るに足らないというか、そんな大した疑問ではないと言い聞かせていた分野だったんです。なので、こんなふうに研究対象として一冊の本になるということ自体に驚いたといいますか。この本が出るまで、みんな心のどこかで考えていたとしても言葉に出さなかったし、普通によけていたと思うんです。ぼんやりとした意識の中で思うことがあっても、整理整頓ができていなかったのかもしれません。
考えもしなかった部分がきちんと整理され、引き出され、言語化されて1冊の本として世の中に出ている、もうそのこと自体に感動したんです。やはりもっと気にするべきことだったんだ、それに気づけたことがすごい衝撃で、目から鱗でした。

アトリエの一角。

Q

現在のお仕事・ご活動、ものづくりにはどう繋がっていますか。

以前は「つくる人はかわいい作品が好き」という先入観に乗っかって、ピンクや赤といった色を多用した作品を多めにつくっていた時期もありました(もちろん実際に人気の色なのですが)。
最近は、そうではない落ち着いた色合いの作品を紹介することが多くなっています。

「こういう影響を受けた」という、より具体的な何かは今は出てきていないのですが、作品作りにおいても、もちろん本を作る上でも、なにかしらの疑問のようなものを抱えながら、ずっと続けていくんだと思います。
どんな考えにも正解はないんですよね。結局自分で答えを出していくしかないんだけど、何かを考える上で基礎になるというか、考え方の礎になりつつある気がしています。

自宅の本棚。昨年の引っ越しの際に大規模な断捨離を行ったうえで手元に残した本。ほとんどの手芸書は会社に持っていっている。
実乃莉さんのアトリエにて。

PROFILE

実乃莉(池田みのり) Minori Ikeda

手芸関連の出版社で編集者として勤務した後、刺繍メーカーに勤務。刺繍キットや用品など、刺繍にまつわる商品の企画を担当している。メーカーで商品企画の仕事もしつつ、作家活動をしている。
著書『連続模様で楽しむかんたん刺しゅう』(日本文芸社)、『刺し子と暮らす』(グラフィック社)、共著『さくさく進む 大きなマス目でクロスステッチ』(誠文堂新光社)などがある。

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