「トルコの伝統手芸 オヤと刺繍展」レポート!@ユヌス・エムレインスティテュート東京トルコ文化センター
トルコの伝統手芸「オヤ」
2024年9月、東京の代々木上原にあるユヌス・エムレインスティテュート東京トルコ文化センターにて、トルコの伝統的な手仕事「オヤ」の展覧会が開催されました。
オヤとは、イスラム教の女性たちが頭髪を隠すために被るスカーフの“縁飾り”の総称です。
オヤは、縫い針やかぎ針などで糸を結んだり編んだり、ビーズを編みこんだりしてモチーフをつくります。
国民の大半がイスラム教徒であるトルコでは、女性たちは頭髪を覆うスカーフを被る宗教的慣習があります。女性たちは日常で使用するスカーフに、さまざまなモチーフをつくり、縁に飾りつけて日々のファッションを楽しんでいました。繊細で可憐なオヤには、トルコの女性たちが紡いできた豊かな文化が詰まっています。
この展覧会は『トルコの伝統手芸 縁飾り(オヤ)の見本帳』(2016年、高橋書店刊)に掲載された、著者の石本寛治・智恵子夫妻のコレクションであるオヤ作品約300点が展示され、書籍の編集を務めたCRK designによる企画構成のもと開かれました。イスラム教徒にとって神聖な礼拝所であるモスクに隣接するこの会場で、今年で3年目の催しとなりました。
展示作品は、日本トルコ民間交流協会の石本夫妻が長年トルコに通い、現地の人々との出会いの中で収集してきたオヤコレクションの数々です。コレクションの中には、木版のハンドプリントによる年代物のスカーフや、今では門外不出の刺繍作品など貴重なものが並びました。「同じものはひとつもないし、二度と手に入らないものばかりなんですよね」と話すのは、この日展覧会を案内していただいたCRK designの北谷さん。
オスマントルコ刺繍も展示
昨年からは、オヤコレクションに加えて、オスマントルコ時代の伝統刺繍の展示が追加され、アップデートされた内容に。オスマントルコ刺繍は、シルク糸やテルクルマと呼ばれる金属製テープなどを使い、いろいろな技法を組み合わせて作られています。宮殿に仕える女性たちは少女の頃からイスラムの教義や読み書き、行儀作法から文学、音楽などを本人の才能に合わせて学びました。手芸もその中のひとつで、刺繍はハンカチやタオル、帯などに施されました。表と裏、両面が同じ仕上がりになるように刺繍され、実用性も兼ね備えています。
展示された刺繍作品は、技法やパターンに決まった形がなく、自由な発想でおもしろいものばかりでした。
個性豊かなオヤの世界
オヤには大きく分けて5種類の技法があります。
●イーネオヤ:縫い針(イーネ)1本で作る、最古の技法。糸を結んで編み上げる。
●トゥーオヤ:かぎ針(トゥー)で編むレース編みの技法。
●メキッキオヤ::舟形のシャトルを使って、タティングレースのように糸を結う技法。
●フィルケテオヤ:U字のヘアピン型に糸を巻き付けて編む技法。
●ボンジュックオヤ:上記4つの技法にビーズ(ボンジュック)を通して編む技法。
女の子は小さい時から編み物や刺繍などの手芸を、母や祖母から教えられました。手先の器用な娘が
良い嫁として喜ばれるからです。嫁入り前の娘たちはオヤを編み、サンドゥックという長持ち(箱)に、
オヤスカーフや代々受け継がれてきた刺繍、手編みの室内履きなどをぎっしり詰めて嫁いでいきます。
さらにオヤには地域性があり、ボンジュック(ビーズ)を入れたものが多いところ、芯にワイヤーを使うと
ころなど、地方によって技法やモチーフが異なります。現在、都会ではオヤを被らない若い女性が増えており、作り手の高齢化で難易度の高いイーネオヤは、年々減ってきていますが、伝統を守り繋げていこうと作り手を育てている地域もあります。
かつての大家族制度の元、生活していた女性たちが自分の感情を表現することが難しい時に、オヤにメッセージを込めて作り、コミュニケーションの手段として使われることもありました。「例えば唐辛子のつい
たスカーフを身につけることで “怒り” を表現していたそうです。アーモンドの花で愛を伝えたり…オ
ヤは言葉の代わりだったんです」と北谷さんは教えてくれました。
約300点集まったコレクションは、1点1点すべて現地の人の手によってつくられたもので、同じものは2つとありません。さまざまなモチーフには、舌や蚊など、こんなものまでモチーフになってしまうのか、と驚くものも数多くありました。個性豊かで自由な世界です。
開催期間中は、ほとんど毎日のようにワークショップが開かれました。編集部も、かぎ針編みでくさり編みをしながら、ビーズを編みこんでブレスレットをつくるワークショップに参加させていただきました。超ビギナー向けのワークショップで、手芸初心者のミグラテール編集部員の私でもあっという間に完成させることができました。
1923年に成立したトルコ共和国は、初代大統領ケマル・アタチュルクによって政教分離が進められました。一時期、大学や役所ではスカーフの着用を禁止するなど、信仰のあつい人にとってはスカーフを被る自由すら奪われるような厳格な政策でした。 今ではグローバル化や女性の社会進出も伴い、若い世代を中心に自発的にスカーフを被らないという選択をする女性も増えてきていますが、今でも宗教上の理由からスカーフを身につける女性はたくさんいます。礼拝堂のモスクの中では身に着けることがマナーであり、今でも女性にとってスカーフは必需品です。
近年は女性のスカーフ着用をめぐって、異なる意見もありますが、自らの手仕事でスカーフを自分らしく飾り、お洒落を楽しんでいたことがよく分かる展覧会でした。
PS:2024年11月からは、ユヌスエムレインスティテュートトルコ文化センターで「ビーズの縁飾り(ボンジュックトゥーオヤ)初心者コース講座」が開かれるので、気になる方はチェックしてみてください。
隣接するモスクは、一般見学も可能です。美しいトルコの建築に魅了されること間違いなしです。
PROFILE
CRK design
グラフィック&クラフトデザイナーのユニット。手作りアイデアは無限大。書籍や展示会の企画・デザイン・編集〜作品制作までトータルに活動中。
2003年日本で初めてオヤを紹介した「トルコの刺繍とオヤ展」がきっかけとなり、美しいオヤに魅せられて以来、ビーズの縁飾り研究会として研究製作を続ける。2008年、西田碧と共著で『ビーズの縁飾り』を出版。著書に『ビーズの縁飾りVol.1〜3』、『縁飾り(オヤ)の見本帳』、『ビーズがかわいい刺繍ステッチ』『ミシンなしでかんたん!かわいい手芸』など…海外版も多数。この伝統手芸の素晴らしさを一人でも多くの方たちに伝わるように、これからもワークショップ、展示会、本の制作などの活動を続けていきたいと思っています。
Mail crk-design-info@crk-design.com
ビーズの縁飾り研究会/CRKdesign
http://crkdesign.blog61.fc2.com/
ビーズの縁飾り研究会/西田碧
http://beadededge.blog119.fc2.com/
オヤ教室のご案内
★オヤと刺繍展会場のユヌス・エムレ(トルコ文化センター)の教室
〇はじめての初心者コース教室 定期講座(全6回)毎月第3木曜(2024年は締め切りました)
〇ビーズの縁飾り中級者コース教室 定期講座(全6回)毎月第4木曜(2024年募集中)
レース編みが初めての方や中級の方の2 クラス。編み方の基礎を学びながらオヤ作品を毎回1点ずつ作ります。ポイント動画つきなので、自宅で復習しながらじっくり学べます。
★ヴォーグ学園 月1 回・定期講座
〇東京校:毎月第3月曜 03-5282-3045
〇横浜校:毎月第4土曜 045-227-1605
ビーズの通し方や編み図の基本、立体モチーフをきれいに仕上げるコツを学べる。カラーバリエーションやアイデアなど、楽しく編むことをモットーにしたクラス。
★ワサビ・エリシ 第3 木曜/日曜・単発講座
世田谷・羽根木の雑木林に佇むギャラリー&ショップ。トルコの各地で買い付けたオヤスカーフやアクセサリーに囲まれて学ぶアットホームなクラス。1回ずつのお申し込み。初心者の方でも安心です。
★日本シードビーズ協会 TOHOビーズの講座コンテンツ
浅草橋にあるTOHO ビーズ(株)の教室。併設のギャラリーでは、多種多彩なビーズが並び購入可能。ビーズの縁飾り研究会は、単発講座を実施中。2025年6月に特別講座開催予定。
★クラフティング 日本ヴォーグ社の通信講座
初心者でも安心なオヤのアクセサリーキットを販売中。基本の編み方など重要なポイントはミニ動画でも解説しています。
各種お問い合わせは下記URLのメールフォームから。
ブログ http://crkdesign.blog61.fc2.com
INFORMATION
ユヌス・エムレインスティテュート東京トルコ文化センター
住所:〒151-0065 東京都渋谷区大山町1−19