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「としま編んでつなぐまちアート2023」みんなの編みものが池袋を包む

東京都豊島(としま)区の中心・池袋。3年前から冬になると、カラフルなモチーフ編みが街じゅうを包むようになりました。11月末某日、今年最後のワークショップがあると聞きつけたミグラテールは、すぐに駆けつけました。
photo: Takashi Sakamoto, text: Hinako Ishioka

2023年12月1日~2024年1月31日まで、池袋のまちなか8カ所が編み物で包まれる「としま編んでつなぐまちアート2023」が開催されています。

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11月末某日、モチーフ編みを繋ぎ、公共の木々やポールなどに巻き付ける「ヤーンボミング」のワークショップが南池袋公園であると聞きつけ、編集部は池袋に向かいました。ヤーンボミングとは、アメリカ発祥のストリートアートのひとつ。アメリカでは、あらゆる街にある外壁に描かれたグラフィティのように、匿名のアーティストの手によって突然現れるものです。
現在池袋で発見できるヤーンボミングは、豊島区民や地元企業などが中心となり「としま編んでつなぐまちアート」と題して2021年から始まったもの。池袋に携わる人、都内外の人々と一緒に編んでまちなか各所を飾り、人とまちを編み物で繋げるニットアートプロジェクトのひとつの形です。
実は豊島区、2014年に日本創成会議によって東京23区内で唯一「消滅可能性都市」に選ばれた過去があります。それ以来、区をあげて「国際・アートカルチャー都市」とコンセプトを掲げ、アート中心のまちづくりを進めてきた、という背景があります。

「としま編んでつなぐまちアート」の総合監修として声がかかったのは、編み師の203gowさんでした。美術館での展示や、商業施設のディスプレイ、さらに各所で数々のワークショップを開き、編み物で地域や多世代交流を手掛ける造形作家です。経験豊富な203gowさんは、このプロジェクトの基盤づくりの話し合いから参加しました。

総合監修を務める203gowさん。

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203gowさんは「10年以上前から海外で広く見られるようになった、ヤーンボミングを日本でもできたら」と、当時は家の中でひとりで編むのが主流だった日本で、外へ出て編み物仲間と編むこと、その仲間たちとニットアートができる日を夢みていたそう。日本でニットアートを実現するべく、小さなグループから始め、次第に多世代や地域交流をする活動になり、3年前から始まった「としま編んでつなぐまちアート」へとつながりました。

このプロジェクトのモチーフには、豊島区・池袋のシンボルである「ふくろう」を採用し、「編みふくろうの森」をテーマにイケ・サンパーク(としまみどりの防災公園)内のイチョウ並木を編み物で飾ることを目標として自治体や地域の方々と連携して始まりました。1年目はSNSやチラシを通じて編み物モチーフを全国募集。青森から九州まで編み物好きが続々と参加しました。たくさんのモチーフが集まり、当初想定していたイチョウ並木だけでなく、公園じゅうを編み物で飾ることができたそうです。

文字通り1枚ずつ、モチーフ編みを手作業で編み繋ぐ。

203gowさんは「編み物で地域交流ができていて、連携したまちづくりになっている。遠方の人が池袋に来るきっかけにもなったりする」と、取り組みの成果を実感している様子でした。取材当日の作業中、近くを散歩していた近隣住民の男性が、編み繋ぐ作業を見て「大変だね、でも冬の木が暖かそうでいいね」と声をかけていました。
つなぎ合わせたモチーフ編みをよく見ると、ファッション業界でも流行中のグラニースクエアと、ふくろう柄のモチーフが色鮮やかに編まれていました。グラニースクエアは自由度が高く、編み物初心者でも上級者でも楽しんで編めることが魅力。ふくろうは、先にも触れましたが、豊島区の形が翼を広げたふくろうに似ていることから、区民のシンボルとされています。

2021年、1年目はフクロウの顔を表した[〇▽〇]の記号の組み合わせを全国募集。なんと約5000枚のモチーフ編みが集まったそうです。コロナ禍ということもあり、みんなが外の社会と繋がる良い機会にもなっていたのかもしれません。さらに2年目は[〇▽〇]に楕円形がプラスされたモチーフに進化しました。

3年目となる今年は、より地域に根差した取り組みに進化しました。9月~11月まで、池袋の公園や大通りの歩道で編み物のワークショップを開き、モチーフ編みを集めました。

講師のひとりでFrog Studio手しごと部を主催する有馬晶子さんは「アートというならモチーフ編みにも個性が出ていいと思う」と、モチーフ編みに自己表現をプラス。担当した南池袋公園には色も形も編み方も比較的ユニークなものが揃いました。さらに、「10、11月にストリートファニチャーでワークショップを4回開いたのですが、イベントのことをまったく知らない通りがかりの人も参加してくれたんです」と、いろいろな人が参加してくれたことを嬉しそうに話してくれました。

Frog Studio 手しごと部を主催する、有馬晶子さん。

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今年池袋各地で行われたワークショップの参加者数は、なんと約700名。参加者の手によってたくさんのモチーフ編みが集まりました。
203gowさんは「モチーフ編みは、サイズや編み方を間違えてもまたすぐにやり直せるのがいいところ。グラニースクエアやふくろうなど、ある程度のテーマを決めておくと、参加者が基準のなかで自由に遊ぶことができる」と、プロジェクトの総合監修の視点がするどく光っていました。

ちなみに、池袋の木々などに巻き付けられたモチーフ編みは、展示期間が終わると、綺麗にクリーニングされた後、池袋の公園で使えるブランケットや敷きものにリメイクされるそうです。参加者が編んだモチーフ編みが、また次の形になって池袋の施設や公園で再利用されるという、地域循環型のアートなのです。
ワークショップの参加者たちは「池袋は苦手な街だったけど、こういうアートで綺麗になって嬉しい」「通りかかりで興味を持って参加しました。地元でこういう取り組みがあるのはいいですね」「街に知り合いが増えた」と、様々な感想でした。

「キルティング・ビー」(註:キルトをつくるために複数人が集まったコミュニティのこと。植民地時代初期から始まったといわれている。)という言葉があるように、昔から人々は手芸・ものづくりを通してコミュニティをつくってきた歴史があります。かつては女性の社交場の意味合いが強かったのですが、これからの時代は性別、年齢、人種などあらゆる境界のない、外のコミュニティが求められていくはずです。

「としま編んでつなぐまちアート」プロジェクトメンバーが、先陣を切って進めているように、地域の人と一緒に編む、このようなものづくりの取組みが、地域の人と人を繋いでいきます。そして編み物が、「家の中でひとりですること」というイメージを離れ、もっと外に出て、その価値を発揮するような取り組みがどんどん増えていくでしょう。

一度、池袋を訪れてヤーンボミングアートを見てみてください。1枚1枚編まれ、編み繋げられたその時間の膨大さに圧倒されること間違いなしです。何と言っても池袋がカラフルでかわいいですよ。

INFORMATION

としま編んでつなぐまちアート2023

〇展示期間
2023年12月1日~2024年1月31日

〇会場
・イケ・サンパーク(としまみどりの防災公園)
・サンシャインシティ60展望台「てんぼうパーク」
・JR池袋駅「いけふくろう」
・西武池袋本店(9階屋上)
・中池袋公園
・南池袋公園
・自由学園明日館
・WACCA IKEBUKURO
計8か所

詳しい情報はとしまハウスのサイトをご覧ください。

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