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わたしたちのリメイク&アップサイクル Vol.1 蔭山はるみの布ぞうりづくり 前編

ずらりと並んだ色とりどりの布ぞうりを目にして「これがあの布ぞうり?」「こんなかわいいのがあるの?」と、一般的な布ぞうりとのイメージの差に驚いた方も多いのではないでしょうか。あらゆる技法をこなし、独自のオリジナル手法も続々生み出すユニークなクリエイター、蔭山さんにとって布ぞうりは、日本の素晴らしい伝統文化を味わいつつも、和の履き物という概念を超え、今の私たちの暮らしやファッションにフィットするおしゃれなルームシューズとしても活用できる、またとない注目素材。そして誰でも自分好みの一足を作ることができる、ハンドメイド好きにとっても見逃せないアイデムだと言います。そんな布ぞうりの魅力、楽しさはどこにあるのか、たっぷり伺ってきました。
text/Harumi Kageyama photo/Ayako Hachisu、Harumi Kageyama

●作り始めたきっかけは、偶然のひと目ぼれ

ぞうりの原型と言われるわらじやわらぞうりが普及したのは、平安時代中期のこと。
身分の高い特定の人だけが靴を履いていたこの時代に、庶民の履物のひとつとして広まったとされています。わら縄を使い、編んで作られた当時のわらぞうりは、時代の流れとともにさまざまな素材、形やデザインへと進化し、明治時代以降、そして第二次世界大戦後、洋装化が進んで靴が一般的になるまでの間、多くの日本人の暮らしを支えてきました。
今では特別なシーンや趣味のアイテムとして使われることが主になりましたが、その一方、足裏や指への刺激が体に良く、足のムレやニオイ防止にもなるなど健康面で再び注目を集め、履き始める人も増えています。
…と、ちょっと堅苦しい歴史の話から始めてしまいましたが、今、これを読んでくださっている方で布ぞうりを知らないという方は、きっといらっしゃらないんじゃないかなと思います。ただ、名前は知っているけれど、実はよく知らないという方も。私の布ぞうりとの付き合いも、そんな状態からの“ひと目惚れ”で始まりました。

きっかけは、今からもう20年くらい前、仕事先で偶然目にした雑誌の記事。取り上げられていたのは確か四国地方のおばあちゃんが作った、今思えばごくシンプルなものだったんですけれど、その時なんだかすごく心が動いたんです。
もう理屈抜きに「わ〜、かわいい!!」ってワクワクしてしまった。
どうしても自分で作ってみたくなって、その雑誌の編集部の方に1冊いただいて帰り、練習また、練習。自分なりに少しずつ、作り方に改良を加えながら作り続け、2週間ほどである程度作れるようになったんですが、今度は素朴な疑問がわいてきました。

●布ぞうりイコール和風だけ? 沸々とわいた疑問から生まれたのは…

履き心地は快適。緩やかにカーブした楕円形のフォルムもすごくいい。ただ、当時ネットや本などで見るぞうりは、少し地味めな和風のイメージばかり。それももちろん悪くはないのです。
でも、私たちが普段の暮らしに取り入れるには、ちょっとばかり気が乗らない。

ギンガムやデニム、北欧柄など普段からなじみ深い色柄の布が並ぶ蔭山さんの布ぞうり。

ギンガムチェックに水玉に、花柄、ストライプetc.。コットン、リネンにデニムetc.。色も柄も素材も、普段の洋服やインテリア、手作りする小物はそんな「お気に入りの布たち」で溢れているのに、どうして布ぞうりは…って。私自身、練習していた時に使っていたのもそんな普段づかいの布(主にハギレや余り)で、その仕上がりのかわいさは十二分に感じていたので、なおさらでした。
とはいえ、当時はまだ布ぞうりが広く一般的に知られておらず、取り上げてもらう機会も場所もなく…。
と思っていたら、エコと健康志向が声高に叫ばれるようになり、時代の波に乗って布ぞうりが注目され始め、そんな時、ありがたいことに布ぞうりの本を作りませんかという依頼をいただいたんです。

これぞチャンス!と、やりたかったアイデアやデザインを全部詰め込んで作ったその本が、うれしいことに大好評をいただいたばかりか他にも本がたくさん出版され、第1次布ぞうりブームみたいなものが訪れた。
今から17年ほど前、2007年ごろのことです。 その頃はアイデアを形にするのが楽しくて、そんな布ぞうりの新しい魅力をどんどん伝えたくて、次から次へと作っていたのを覚えています。

●見た目は現代風になっても、古き良き日本のDNAは変わらず

長さ24cm前後、幅約9cmの楕円形。このぞうりのサイズって、いろんな色柄づかいや配色、素材遊びを試すのに、小さすぎず大きすぎずちょうど良いサイズなんですよね。
さらに鼻緒と前つぼ(鼻緒を中心で押さえて履けるようにする部分のこと)でアクセントや変化をつけられたり…と、想像以上にやれることがたくさんあります。さらにぞうりは左と右を片足ずつ計2個作るから、この2個それぞれで色柄を変えて楽しむこともできる…。
そして何より魅力なのは、日本の古き良き伝統に根付いたぞうり自体の「懐の深さ」。
どんなに遊んでもちょっと大胆にやっても、基本の編み方や形の整え方さえきちんとしていれば、あの楕円系のフォルムは変わることがなく、履き心地を変えてしまうこともなく、どしっと構えて受けとめてくれる。ブレない存在感とでもいうんでしょうか…布ぞうりには、それがあるんです。

さらに、作るだけでなく眺め、日々履いているうちに、ちょっと不思議な感覚が芽生え始めてくる。
鼻緒に足指を入れ、スタスタと歩いていると、懐かしいというか居心地がいいというか、言葉では表現しづらいのですが、あ〜私は日本人だなあってどこかホッとするような、ちょっと誇らしいような気持ちがじわ〜と滲み出てくるんです。現代人はもちろん、ぞうり中心の時代を知りませんが、日本人のDNAには最初からその良さが組み込まれているのかも。そう感じ出したら、もう手放せなくなってきます(笑)

●実はSDGsなアイテムでもあります

同時にもうひとつ、魅力なのは、布ぞうりはもう使わなくなった布アイテムを再利用できること。
シーツやカーテンといった大きなものから、ワンピースやスカート、Tシャツ、デニム、着物、マフラー、テーブルクロスに至るまで、使えないものはないくらいあらゆるものが利用できます。
好きでどうしても捨てられないものを、最後にぞうりにしてしっかり使い切ってあげる…なんていうのも素敵だし、子供たちの思い出の品の一部を、小さなぞうりにして取っておく…なんて利用法も。
リメイクするアイテムによっては、そのアイテムでしか作れない個性あるデザインが誕生することもあって、それも楽しい。
布ぞうりはSDGsの観点から見ても、とても優れたアイテムであり、アイデアなのです。

左はチノパンを、真ん中は実家で眠っていた中国製の刺しゅう入りテーブルクロスをリメイク。右は着物をリメイクし、アクセントにスワロフスキークリスタルを散りばめた。

そして。もうおわかりだと思いますがこの布ぞうり、私が特別なのではなく、誰でも自分で手作りすることができるんです。自分のライフスタイルに合った、自分の好きな色や柄を使った、とっておきの布ぞうりをどんどん作って楽しめます。

続く後編では、布ぞうりはどんなふうにできあがっていくのか。その作り方をご紹介します!

フレームから小さなハンガーまで、すべて手作りでコーディネートされたアトリエの一角。

PROFILE

蔭山はるみ Harumi Kageyama

ハンドメイド・クリエイター。
大工の棟梁に教えを受けた木工以外は、すべて独学であらゆる手仕事をマスター。溶接以外のすべての手法をこなす一方、独自の手法も開発し、おしゃれ小物からインテリア雑貨にいたるまで、あらゆるジャンルの作品を制作。特に、毛糸、布、流木や小枝、ワイヤーなどの身近な素材を使った“作りやすくて使いやすい”発想豊かなものづくりに定評がある。ダンボールを使ったオリジナル織り機の作り方、織り方、おしゃれ小物の作り方を提案した「ダンボール織りテクニックBOOK」(小社刊)はじめ、著書も多数。各自が好きな素材を持ち込み、毎回作りたいものを作るというフリースタイルの+hアトリエ教室を主催するほか、YouTubeチャンネル「蔭山はるみの楽しく作ろう! Many ideas Craft&DIY Channel」では、ハンドメイド好きだけでなく、初心者や手作り苦手派にも役立つアイデアを続々発信し、人気を集めている。

公式HP: kageyamaharumi.com
公式LINE: (utage-system.com)

INFORMATION

+h 布ぞうり講座

この夏には、全国どこにいても対面講座感覚で学べる、これまであるようでなかった新しいタイプのオンラインハンドメイド講座を立ち上げ、その第1弾「+h 布ぞうり講座」が話題を集めている。講座の詳細・1DAY交流会については、こちら↓を。

https://hamikageyama.amebaownd.com/posts/55432298?categoryIds=2346884

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